江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)
9.奈良の晒場(巻之二)(関連スポット:佐保川)
奈良名産品のひとつに奈良晒(ならさらし)があります。晒は麻製の織物のことで、特に奈良晒は最上品として知られ、徳川将軍家から奈良晒には「南都改」の印をつけよと命じられ、印のない晒は売買が禁じられました。
大和名所図会は、佐保川の晒場でつくられる奈良晒の工程を一場面で描いています。
①純白の晒布を川の流れに泳がせて洗う。
②岸に広げて並べる。
③灰汁をかけて、日に干す。
④灰汁で炊いて、さらに、日に干す。
⑤これらを繰り返した後、木臼でついて、川で洗う。
こうして、数十日かけて、奈良晒がつくられます。
晒を干した様子は、「佐保山白雪の如し」(『揚麻止名勝志』)と称えられ、白い晒と山々の緑や川沿いの木々とのコントラストは、現代で言う“映える”絶景だったに違いありません。
絵の背景の右奥に春日山、左に若草山。麓には東大寺の大仏殿、二月堂が描かれ、「宝蔵」とあるのは、位置関係から正倉院でしょうか。
大和名所図会の次の絵「佐保川」には、川で洗濯する女性、裸で遊ぶ子どもたち、川面に垂れる青柳が描かれています。佐保川は春日原始林に源を発し、夏の蛍は南都八景のひとつに選ばれました。現代の佐保川は桜並木がよく知られています。奈良観光の情報誌や情報サイトで触れられることはあまりありませんが、当時の佐保川は日常的にも産業的にも、人々に近く、風情ある景観のひとつだったのです。
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☆観光スポット
施設名 | 『大和名所図会』今昔めぐり ⑨奈良の晒場(巻之二)(関連スポット:佐保川) |
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住所 |
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