【あの大文字より1日早い、奈良大文字送り火】
お盆の夜、山肌に火が灯され、やがて「大」の字が浮かび上がる―。お盆期間、此岸へ帰ってきた祖先の霊が彼岸へ戻るとき、霊を送る送り火の性格を持つ伝統行事です。
京都の五山送り火、忠犬ハチ公の生まれ故郷である秋田県大館市の大文字まつり、世界遺産「平泉」の大文字送り火などがよく知られています。京都や大館市、平泉では8月16日に行われますが、8月15日に行われる大文字もあり、それが「奈良大文字送り火」です。
京都よりも“古都な”奈良で開催される大文字送り火は、1961(昭和36)年から続くお盆の行事。「大」の字は奈良市の高円山(たかまどやま)にあります。
高円山の北~西のふもとに広がる奈良公園界隈では、8月14日まで「なら燈花会」、14日と15日には「春日大社の中元万燈籠」、同じ15日には「東大寺の万灯供養会」など光や灯りに照らされる行事が行われていて、奈良のお盆はゆらめくあかりに包まれます。
古都の夏の夜に浮かび上がる「大」の字の炎。見る人々は先祖供養や諸霊慰霊、平和祈念など、さまざまな思いとともに、ひとときを過ごします。
【宇宙を意味する「大」。奈良の「大」サイズは最大級】
奈良の大文字送り火は、第二次世界大戦で亡くなった奈良県出身者約3万人の戦没者を供養するための行事として始まりました。神式と仏式の両方が続けて行われる珍しい供養です。
「大」という漢字には、規模が大きい、全体、はじめ…などといった意味があり、そこから「宇宙」を連想させる語意となり、戦没者慰霊と世界平和への祈りが込められるようになったといわれています。
各地の大文字のなかでも、奈良の「大」は最大級の大きさです。そのサイズ、1画目が約109m、2画目が約164m、3画目が約128mあります。
ちなみに、前述の大館市の「大」は1画目約120m、2画目約180m、3画目150mもあり、奈良よりも大きいです。京都五山送り火の「大文字」はそれぞれ80m、160m、120mです。
【名物「大」の字のうちわを片手に、送り火を鑑賞しよう】
高円山から西方面を向いた山腹にある奈良大文字。前述のサイズに加え、視界が開ける奈良盆地ですから、市内各所から眺めることができます。
最もポピュラーな鑑賞スポットは、春日大社境内の飛火野です。昼間はシカや観光客がのんびりと過ごす芝生エリアですが、当日は飛火野で夕方18:50から慰霊祭が催され、それに続いて20時頃、高円山の大文字に点火されます。点火中には演奏会も開かれます。
当日、飛火野では大文字送り火と縁が深い、奈良市内の「大」がつく古刹、すなわち、東大寺、大安寺、西大寺それぞれの高僧が揮毫した「大」の字の特製うちわが販売されます。
それぞれ味わいのある3寺の「大」うちわは人気が高く、あおげば古都奈良の夏をいつでも思い起こすことができるでしょう。
徐々にかたどられていく炎の「大」。飛火野は混雑しますが、他にも「浮見堂周辺」「興福寺境内」「東大寺周辺」「平城宮跡」など、大文字を眺望できるスポットがあるので、静かに慰霊したい、じっくり鑑賞したい、写真に収めたいなど、それぞれの目的に合うベストスポットを探してみてください。